空白の一ヶ月〜待ち人きたらず〜




広いベッドの上にだらしなく寝そべって、ルルーシュは一言「つまらん」と呟いた。

「え?今何か言った?」

椅子に腰掛けて本を読んでいたスザクが顔を上げて、ルルーシュを見る。
ルルーシュはうつ伏せに寝転がり、退屈そうに窓の外を見ていた。

「ルルーシュ?」
「まだあいつは来ないのか?」
「あいつ・・・って、誰?」
「・・・俺の馬鹿な玩具さ」
「おもちゃ?・・・ああ、ジェレミア卿・・・?」

ルルーシュに散々引っ張りまわされて、挙句の果てに置き去りにされたルルーシュの忠実な臣下のことはスザクも知っている。
なぜジェレミアがルルーシュの臣下になったのか、その経緯もルルーシュの口から聞いていたし、惚気話のようなジェレミアの逸話も何度か耳にしたことがあった。
ルルーシュの口からジェレミアの話を聞くたびに、スザクの持っていた「ジェレミア・ゴットバルト」という男のイメージが崩れていくのを止められない。
ルルーシュに弄ばれ続けたジェレミアに持つスザクの感情は、今や哀れみに変りつつあった。

―――ジェレミア卿はくるだろうか?

話を聞いただけでも、ルルーシュはジェレミアに対して、その自尊心を傷つけるような酷いことを日常的にしていたことが窺える。
もし自分がその立場だったら、ジェレミアほどはプライドが高くないスザクでも、逃げ出したくなるだろう。
しかし「来ないかもしれない」と思うスザクとは反対に、ルルーシュは「絶対に来る」という確信を持っている。
その確信の根拠は、スザクには理解できなかった。

「あいつがいないとつまらない・・・」
「だったら迎えに行けば?」
「嫌だね!なんで俺があんなやつを迎えに行かなければならないのだ?」
「・・・だって、待ってるんだろ?」
「ま、待っているわけじゃない!いないとつまらないと言っているんだ!!」

それは「待っている」のと同じことなのではないだろうかと、スザクは苦笑する。

「・・・じゃぁ、僕が迎えに行こうか?」
「それもダメ!」
「なんで?」

スザクにはルルーシュの言っている意味がわからない。
自分が迎えに行くのが嫌ならば、誰か他の人に迎えを頼めばいいはずなのに、ルルーシュはそれも「だめ」だと言う。
だとしたら、ジェレミア自身が自分の意思でここに来るのを待つしかないのではないだろうか。

「ジェレミアが自分の意思で俺の元に来なければ意味がないんだよ。折角プレゼントも用意したんだから・・・」
「プレゼント?」
「そうだ。宮殿の地下に特大のフレイヤ弾を用意してあるんだ」

スザクは思わず顔を引き攣らせ、楽しそうに微笑んでいるルルーシュの顔を見た。

「・・・キミは、ジェレミア卿を殺すつもりなのか?」
「まさか。お気に入りの玩具を自分の手で壊す馬鹿はいないだろう?」
「で、でも・・・いくらジェレミア卿でもフレイヤ相手じゃぁ・・・」
「あいつはそれくらいじゃ死なない。それくらいで死ぬようなら俺の玩具として失格だ!」
「ルルーシュ・・・ジェレミア卿はキミの玩具じゃなくて、臣下だろ?」
「同じことだ。玩具でも臣下でも俺の退屈を満たすにはそれくらいのことができなくてはな」

ルルーシュのハードル設定の高さは、多分チョモランマよりも高いのだろう。
それを超えなければ臣下としては認められないのだ。
到底自分は超えられないと、スザクは思う。
いや、超える気もさらさらないのだが。

「早く来ないかな〜♪」
「・・・ルルーシュ。聞いてもいい?」
「ん?なんだ?」
「どうしてキミはそんなにジェレミア卿に拘るんだい?」
「なぜだろうな?・・・でも、あいつの困った顔を見ないと一日が始まらないんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「泣き顔を見ないと夜も眠れない」
「そ、それって・・・」

それは恋をしているときの気持ちに似ているのではないのだろうかと、スザクは思う。
ルルーシュはそれをわかっているのだろうか。
ジェレミアはそれに気づいているのだろうか。
いずれにしてもルルーシュの過激極まる我侭には脱帽するしかない。

―――ジェレミア卿。ここにきたら貴方はいつかこの我侭な主君に殺されますよ・・・。

ルルーシュが見つめる窓の外の蒼い空に目を遣って、スザクはそっと溜息を洩らした。